เข้าสู่ระบบ私は罠にはまって強制転移させられた後、どうやら気を失っていたらしい。
「んっ……。ここは……」
目を覚ますと、見知らぬ祭壇の上に居た。慌てて周囲を見渡すと、壁には『歓迎☆筋肉聖女様』と書かれた垂れ幕がかかっている。
(………………すうっ)
私の意識が現実逃避のために遠のきかけたが、突然開いた扉がそれを許してはくれなかった。
「お目覚めになられたのですね! 筋肉聖女様!!」
「違いますがぁ!?」
いけない。反射的に飛び起きて否定してしまった。取り合えず様子見で肯定しておくことも出来たのに! いやでも、自分が筋肉聖女であることを肯定はしたくないな!?
「またまた、ご謙遜を!」
「いや本当に違うんですよ。というか、あなたたちは誰ですか! 私を元居た場所に返してください!」
「よくぞ聞いてくださいました!!」
待ってましたと言わんばかりの返答に、私は自分の質問を大いに後悔した。しかし後悔したところで、もう遅い! 扉からドヤドヤと数十人――下手すると百人近い集団が入り込んできて祭壇を取り囲む。
「ひえっ!?」
全員白いローブを纏っているのだが、その袖はなく完全に上腕二頭筋が露出している。そして胸元もやたらと開いている。もはやローブの意味があるのか、私には全く分からない。
「我ら!」
「「「聖バーベル教会!!」」」
「筋肉聖女様をお迎えに上がりました!!」
「分かりました、全員、馬鹿ですね??」
号令と共に”聖バーベル教会”と名乗った彼らは、思い思いのマッスルポーズを披露していた。そこは統一しないスタイルなんだ……。
ああ、いけないいけない。思考がまた現実逃避を始めかけていた。「とにかく、あなたたちが誰であってもです! 私の居場所はここではありません。そもそも誘拐は犯罪です!!」
「しかし、我々の聖典には書いてあるのです。目覚めの時、筋肉聖女が降臨され、我々に正しき筋トレの道を示してくださるだろうと――」
「筋肉聖女の役割それで良いの!? ジムトレーナー的な??」
「長年、我々は筋肉聖女様を探し求めておりました……。そしてついに先日! 軍の部隊に筋肉聖女様が降臨されたとの噂を聞きつけ、急いでお迎えに上がったのです!」
「待った!! 何ですか、その噂って!?」
「えっ。何を仰いますか。町は筋肉聖女様の噂でもちきりですよ! 立ち寄った軍人たちが自慢していったとかで」
「いやあああああ……!!」
私は絶望に頭を抱えた。着々と筋肉聖女としての外堀がうめられていく……。
「とにかく朝礼だ!! 筋肉聖女様を迎えての初めての儀式、皆、気合を入れていくぞ!!」
「違います、帰してくださいってば!! 大佐もきっと心配していますし!」
駄目だ、この筋肉たち、何も人の話を聞いていない。
そして朝礼の準備と言いながら、ストレッチをし始めた。嫌な予感がする。とても。「よし、みんな、準備は良いな!? それでは、聖バーベル教会の朝礼を開始する!!」
しばらくの後、私の不安をよそにして、清々しい顔で司祭らしき男が全体へ向けて号令をかけ始めた。
「まずは定例の――腕立て伏せ100回、はじめっ!!」
「「「ふんっ!ふんっ!」」」
「………………」
うん、まあ、知ってた。多分、こうなるだろうとは思ってた。先が読めるようになってしまった自分が憎い。もしかして、この世界に染まりかけているのではないだろうか……恐ろしい。
「聖女様! 腕の角度はこれ位で良いですか??」
「分かりません!!」
「聖女様! 腕立て時の呼吸はどうすれば良いですか??」
「知りません!!」
「聖女様! あなた様も是非ご一緒に!」
「しませんっ!!!!」
信者たちが腕立て伏せをしながら、口々に中央の祭壇の上にいる私に話しかけてくる。怖い。この状況、正直怖すぎる。
なんというか、まず数の暴力が酷い。百人近いマッスルに取り囲まれて筋トレされているって、圧が半端ないのだ。
それにこの筋肉ノリで誤魔化されてはいるが、相手は私を誘拐してきた過激派集団である。いつ危害を加えられるか分からない。(早く逃げ出さなくては……)
私は意を決すると、賭けに出ることにした。この状況を、利用するのだ!
「皆さん、筋肉からのお告げです!!」
私が大声で叫ぶと、信者たちはしんと静まりかえった。皆からの注目を受ける状況に緊張するが、ここまできたらやりきるしかない。
「今すぐ、即刻、可及的速やかに、筋トレを中止してください!!」
どよめく声が響き渡る。よし、インパクトは与えられているぞ、もう一押し!
「今日は筋肉を休める日です! 筋トレのしすぎは、かえって筋肉を傷めます。よって本日はトレーニング中止! 解散!!」
言い終えると、私はゴクリと息を飲んで周囲の反応を伺った。皆それぞれ、ショックを受けた顔をしている。
……何だか申し訳ない気分にもなってくるが、背に腹は代えられない。私は大佐のところへ帰らなくてはいけないのだ。「司祭、どうしますか!?」
信者たちは、狼狽えながら司祭の男に問いかけている。彼はしばし神妙な顔で考え込んだ後、優しい笑顔で私を見つめた。
「なるほど、分かりました」
「分かってくれましたか!」
「ええ、勿論です……。聖女様は我々を試しているのですね!」
「はいっ??」
「こうして甘い言葉をかけて、我々の筋トレ精神をお試しになっている!」
「なってません!!」
「甘い誘惑、慈悲の心、それに打ち勝ちトレーニングを続ける者にこそ、真の筋肉が与えられる!
そう仰りたいのですよね!!」「駄目だ、この人、他人の話を聞かないタイプ!」
「皆の者、これは試練だ!! 我々は聖女様に報いるためにも、より素晴らしい筋肉を披露する義務がある!」
「ありませんからね!」
「さあ、スクワット祭壇の準備を!!」
なんか最後にとんでもない単語が聞こえてきた。絶対に駄目なやつが出てくる予感がする。
私は本気で絶望した。どうしよう。逃げる手段がなくなった。それに、全然話が通じない。思えば、カイル大佐との会話は良かった。同じ筋肉信者でも、私の言葉は聞いてくれたし、気持ちも考えてくれていた。
ああ、大佐に会いたいな。今頃、どうしているんだろう。転移魔法でここまで飛ばされたから、彼が私の居場所を突き止めることはきっと難しい。だからこそ、自分の力で帰らなくてはいけないのに。
「大佐……」
ぽつりと声がこぼれる。その声も、筋トレの掛け声にかきけされていく。
私がうつむいた次の瞬間、爆発音と共に大きな砂煙が上がった。「きゃあっ、何っ!?」
顔をあげると、建物の入り口である扉付近が派手に吹き飛んでいた。
そして、砂煙がおさまってクリアになった視界に現れたのは――「大佐!!!!」
「私のコハルを返してもらおうか」
半裸のカイル大佐、その人だった!!
グルメシア研究所から帰還してから、私は和平食事会の準備に尽力していた。 日中は軍の仕事をこなしつつ、休みの日や空き時間にはメニューの研究をして、小さいながら畑も作って植物を自分で育ててみたりもした。 「うーん」 そんなある日、私は軍の拠点にある自室で、机の上にノートやメモ書きを広げたまま腕を組んでいた。「メインディッシュが決まらない……!」 鬱憤を発散するように、わーっと叫ぶ。 その声に驚いて、近くで遊んでいた筋肉スライム達がぽよぽよ転がっていった。 新人研修以降、筋肉スライム達とバルキーモンキー達は、すっかり軍に居ついて馴染んでいる。筋肉による交流の効果か、他の軍人さんとも仲良くやっているらしい。「わわっ、ごめんね!」 スライム達を拾い上げると、私は小さく溜息を吐いた。「部屋の中で考え込んでいても、煮詰まっちゃうな……。お散歩がてら、畑でも見に行ってみよう!」 私は数匹のスライムを連れて、自分の作った畑へと向かった。「外の風はやっぱり気持ちいい!」 軍の本拠地の裏手を耕して作った畑には、アイアン芋、マッシブキャベツ、ショルダートマトが元気よく育っている。 水を汲んで生きたジョウロの中に、プロテインの滝の水を数滴たらして、私は日課となった水やりを行った。 その傍らで、バルキーモンキー達はスクワットしながら、畑の雑草取りに勤しんでくれている。「みんな、ありがとうね! お野菜たちも、立派に育ってきたなぁ」 少し離れた場所には、マッスルベリーやバーベル葡萄を育てている果樹園もある。 一生懸命お世話をしているとはいえ、ほんの数日でここまで成長してしまうのは驚きである。「これだけの材料があれば…! サラダに、スープに、デザートのフルーツ盛り合わせも出来そう。でも、やっぱりお魚やお肉がないと――」 「どう思う?」とスライムちゃんに問いかけても、彼らはぷるるんと飛び跳ねるだけだ。 その姿に癒されつつも、水やりを終えた私は畑の傍の草原にどさりと寝転んだ。 仰向けになって空を見上げる。 雲がのんびりと流れていく、のどかな光景である。「マッスルすみれは、花弁も葉も茎も食用に使えそう。サラダや、デザートの彩りに。アイアン芋はポタージュスープにしながら、具もごろごろと入れて歯ごたえを……」 ぶつぶつと呟きながら、私は次第に睡魔
軍の新人研修が終了して数日後、私とカイル大佐はダンベリア国の研究施設を訪れていた。 『プロテインの滝の水の効果が判明したので、報告したい』という手紙を受け取ったからだ。「お時間を頂き、ありがとうございます。カイル大佐、筋肉聖女さま」「いえいえ、こちらこそ、ありがとうございます!」「私は主任研究者のプロティーナです。さあ、どうぞこちらに」 眼鏡をかけた白衣姿のマッチョ男性研究者――プロティーナさんに案内されて、私たちは研究施設の奥へと進んでいった。 研究道具と筋トレ道具が同列に並ぶ棚のひしめく廊下を抜けて、辿り着いたのは開けた場所。「わあっ!」 「ほう、これは……!」 私とカイル大佐は、思わず感嘆の声を上げた。 目の前に広がっているのは、広大な畑だ。 研究施設の裏庭だと思われるその場所に、青々と作物の育った畑が広がっていた。「凄いですね。ここではいつも植物の研究を行っているんですか?」「いえ。ここは元々、研究員たちの筋トレ広場だったんですが……」(研究員たちの筋トレ広場??)「プロテインの滝の水をお預かりしたので……。試しにその水で花でも育ててみようということになりまして。その、第一号がこちらです」 プロティーナさんが指で示すが、其方には柱があるばかりで植物はない。私は首を傾げた。「……? あの、お花がどこにも見えませんが……」「いえ、その、上です」「上……?? うわぁっ!?」 私は腰を抜かしそうになった。 見上げた先には、巨大な、私の顔程の大きさのマッスルすみれの花があった。 柱だと思っていたのは、太く成長した植物の茎だったのだ。「ひええっ。な、なんですか、これは!? 私の知っているマッスルすみれは、もっと小柄な花なんですが……!」「はい。それが、育成中にプロテインの滝の水を与えたところ、一晩でここまで成長しまして」「一晩で!?」「うぅむ。これは……良い筋肉だな!」「スミレにも筋肉があるのでしょうか……」 カイル大佐の言葉に私は困惑していた。 しかし、当のマッスルすみれは風に揺られて、満足げにマッスルポーズをとっている……ように、見えた。「そんなわけで、このプロテインの滝の水には、植物の成長促進や発達を強化させる効果があると考えまして。他にも色々と試してみたのです。そうして出来たのが、
謎の大爆発に吹き飛ばされた私とカイル大佐は、演習場から遠く離れた森の中に落下した。 ――ドサドサドサァッ!! 私はその衝撃に身構えたが、痛みを感じることは無かった。「あれ、痛く……ない!? ……はっ!!」 気が付けば、私は半裸のカイル大佐に抱きかかえられていた。いわゆるお姫様抱っこの状態である。 大佐に守って貰ったおかげで、無事に怪我無く着地できたのだろう。「大丈夫か、コハル!」「ひょえっ!? 無事ですっ! あ、あああ、ありがと、ございま……!?」 真面目な顔で訊ねてくる大佐に、私は真っ赤になって固まる。 感謝の気持ちでいっぱいではあるが、それ以上に今の状況は心臓に悪い。 好きだと自覚してしまった大佐に抱きかかえられているだけでも、ドキドキしてしまうのに。 密着している大佐の上半身の服は、当たり前のように弾け飛んでいた。いや、多分、先程の爆発で吹き飛んだんだと思うけれど。 「大胸筋が……腹筋が……まるで筋肉の宝石箱や……ぴぃ」 私の脳はオーバーフローを起こし、意味不明な言葉を呟きながらがくりと目を閉じる。「コハル、本当に無事なのか!? どうした、コハル、コハル――ッ!!」 大佐は慌てて、私の身体を揺さぶる。 そんなやりとりに割り込むように、聞き覚えのある声が響いた。「……なあ、そろそろ、俺たちに気づいて貰って良いか?」「むっ?」 「ふぇっ?」 その言葉に反応した私たちが顔をあげれば、そこにいたのは十数人の軍人達。 ただし、軍服はダンベリアではなく、グルメシアのものだ。 そしてその中心で腕を組みながら困惑顔なのは、赤髪の――「グルメシア精鋭軍の、リーダーさん!」「ハバネロだ。それに、今はもう精鋭軍じゃない」「えっ、どういうことですか?」「とりあえず、降りてきてくれ」「降りる、って、何から……」 私が不思議そうに首を傾げながら足元を見ると、そこには巨大なマッスルエレファントが倒れ伏していた。「ひえええっ!? なんですかこれは!?」「どうやら落下の衝撃で倒してしまったようだな」 カイル大佐は静かにそう言いながら、私を抱きかかえたまま地面へと降り立った。「わわっ、あ、あの、もう大丈夫です! 歩けますっ!」 私は慌てふためきながら大佐の腕から解放してもらい、ほっと一息つく。 そうして私たち
「ひいいっ」 私は涙目になって、木陰に身を潜めていた。その周辺を、ノースリーブの軍服を着たマッチョ軍人たちがうろうろと徘徊している。「ど、どうして、こんなことに……」 ――そう、この話は数時間前にさかのぼる。◇ ◇ ◇「新人研修の最終訓練ですか……!」 カイル大佐と私が軍の新人研修に合流してから、1週間ほどが経過していた。 朝の挨拶代わりのスクワット敬礼に始まり、懸垂行軍、バーベルシールド演習、腕立て射撃と、その訓練メニューは苛酷なものだった。 しかし新人たちは誰一人弱音を吐くことなく、むしろ我先にと訓練をこなしていった。 流石、もともと聖バーベル教会に入信していたマッスルエリートたちである。 ちなみに彼らは自慢の上腕二頭筋を見せつける為、いつの間にか軍服の袖を勝手に切り取っていた。 その後、軍服を再支給する話も出たが、「どうせまた勝手に切りそう」という理由でこのまま放置されている。 ――そんなわけで、ついに研修最終日を迎えることになったのだ!「うむ。最後は今までとは違い、実践的な演習を行う!」 演習場である森の中、新人たちの前でカイル大佐は腕を組みつつ説明を始めた。「演習は二チームに分かれておこなう。簡単に言えば鬼ごっこのようなものだ。鬼はささみチーム、逃げ手はブロッコリーチームとする!」(ネーミングが筋肉食材……)「私はこの森の奥にある岩山で待っている。ブロッコリーチームの一人が私に辿り着ければ、逃げ手の勝ち! それまでに全員捕獲すれば、ささみチームの勝ちだ!」「おお、なんかちょっと面白そうですね。私は捕獲の判定員とかすれば良いですか?」「いや、この演習にはコハルたちも参加してもらう」「ひょえ!? 私もですか?」「ああ。人数が多い方が訓練になるし、チームワークも磨けるからな!」「な、なるほど。あれ、コハル”たち”って……?」「勿論、彼らのことだ!!」 カイル大佐の言葉と共に、森の木陰から筋肉スライム達と、バルキーモンキー達が飛び出してきた。「えええっ、こ、この子たちも参加するんですか!?」「うむ。素晴らしい筋肉を期待しているぞ!!」 元聖バーベル教会の教徒、もとい軍の新人さん達から大きな歓声が上がる。 私は筋肉ムードで盛り上がるこの場の雰囲気におされて、一切のツッコミを封じられた。「さあ、くじ引き
私のベッドの周りには、バルク3世様、サーロイン大臣、カイル大佐、キンバリー王女様、侍女の皆さん、筋肉スライム達、バルキーモンキー達がずらっと並んでいる。「……お、多くないですか!?」「いやぁ、みんなコハルの話を聞きたがってねぇ」「スライム達やバルキーモンキー達が王城に入るのは、大丈夫だったんです?」「良い筋肉だったからね! 私が許可したよ!」 バルク3世様が、さわやかな笑顔でそう言った。国王様が許したのなら、まあ良いか……。「コハルおねえちゃん、お話、聞かせて聞かせてー!!」 キンバリー王女様が、ベッドの傍まで駆け寄ってくる。 私はその愛らしい姿に癒されつつ、ゆっくりと昨夜の出来事を話し始めた。 ――プロテインの滝の存在を知り、南の森へ出かけたこと ――無事に目的地にたどり着いたが、襲撃を受けたこと ――ピンチに陥ったが、突然不思議な力がみなぎってきて勝利できたこと 「なるほど。コハルの祈りに応えて、スライム達の筋肉がパワーアップしたということかな?」 話を聞いたビルド3世様は、興味深そうに私に問いかける。「どうなんでしょうか。と、とにかく、あのときは必死で」 そういえばあのとき、何かとんでもないことが起こっていたような……。「あっ!!」「……?」「そうだ、あのとき! スライムちゃん達の、筋肉の声が聞こえてきたような……!」「なにっ!?」 驚きと共に、大佐が身を乗り出す。「それは本当か、コハル!?」「は、はいっ! もうフラフラだったので、幻聴の可能性もあるんですが」「筋肉は何と言っていたんだい?」「それは――、『躍動したい』『輝きたい』と……!」『ぷよよっ!』 私の言葉を肯定するように、筋肉スライム達はぽよぽよ飛び跳ねる。「ふーむ。なかなか信憑性のある台詞だな……」「そ、そうなんですか??」「いかにも、筋肉が言いそうな言葉だからね!」「……??」 なんとも奥の深い筋肉の世界だ。しかし、この国屈指のエリートマッスルであるバルク3世様とカイル大佐がそう言うのなら、そうなのだろう。……多分。「今も筋肉の声は聞こえるの?」「いえ、あの一度きりで、今は全く」「そうか。何か特別な時にだけ、力が発揮されるのかもしれないね」「だが、コハルの力が本物であることは間違いない。私もこの目で見たからな」「大佐…
ビルドさんがいなくなったプロテインの滝は、すっかり静けさと穏やかさを取り戻した。「や、やった! 勝った……!」 私は、へなへなとその場に座り込む。『ぷよよっ!』 スライム大佐も分裂して、もとの筋肉スライム軍団へと戻っていく。 彼らは勝利を祝うように、私の周りでぽよぽよ飛び跳ねた。 「みんなっ、無事でよかった! 助けてくれて、ありがとう!!」 状況の整理はひとまず脇に置いて喜び合う私たちの背後から、声が響く。「見事だ、コハル――」「……??」 振り返ると、そこには本物のカイル大佐がいた。「ふぇっ!? た、た、大佐、なんで此処に……!?」「君の帰りが遅いから、王立図書館へ迎えに行ったんだが……。軍に戻らず、一人で南の森に向かったという情報を得たのでな」「探しに来てくれたんですか?」「ああ。森の中で彼らに出会い、道案内して貰ったのだ」「彼ら??」 首を傾げていると、バルキーモンキーたちが木陰から姿を現した。「ひょええっ!?」 私は思わず身構えたが、モンキーたちはカイル大佐の傍で大人しく筋トレに励んでいる。 その姿を見て、大佐は感慨深そうに頷いた。「この者たちは、なかなかいい筋肉を持っているな!」『ウホオオォーッ!!』「き、筋肉でコミュニケーションが成立している……」 その様子に嫉妬したのか、筋肉スライムたちは構って欲しそうに大佐の周りを飛び跳ねる。『ぽよよっ!』「勿論! 我が弟子たちも、素晴らしい活躍だったぞ!!」『ぽよぽよ!』 スライムたちは、褒められて満足したようだ。「それにしても、大佐、いつからいらっしゃったんですか? 全然、気が付きませんでした……!」「今来たところだ。助けに入ろうと思ったら、ビルドが吹き飛ばされていったからな」「そうだったんですね! でも、活躍が見て貰えてよかったね、スライムちゃんたち!」 私は筋肉スライムたちに微笑みかける。「……」 そして、あることに気が付いた。「ええと、大佐は、今来たところなんですよね?」「ああ、そうだ」「筋肉スライムちゃんたちが、ビルドさんを吹き飛ばすところは見たんですよね?」「素晴らしい筋肉のこもった一撃だった!」「あの、その前の……スライムたちが、スライム大佐に変身するところは見ましたか?」「うむ。筋トレの成果で、あんなことが出来るとは